● コミュニティ・シンクタンク

 本ページの情報は、「コミュニティ・シンクタンクをつくろう(1999/8 NPO政策研究所 コミュニティ・シンクタンク研究部会)」より、同所理事長木原勝彬氏担当部分の一部、「NPOの杜」関係者執筆担当部分を抜粋したものである。章・節末尾の括弧内は、本報告書の章番号。
 なお本ページの内容は、同報告書の一部抜粋であり、全体の要約ではないことにご留意いただきたい。

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1.コミュニティ・シンクタンクとは(1.3.1)

 コミュニティ・シンクタンクとは、地域や生活の現場に根ざして、生活者の視点、納税者の視点、社会的弱者の視点、地域コミュニティ再生の視点から、住民の生の声、地域内外の英知や専門知を総合編集して、地域の問題・課題を解決する政策形成力をもったシンクタンクである。
 また、社会実験・協働型政策形成・政策評価・フォローアップという、結果責任を回避しない倫理感をもった実践・行動型のシンクタンクでもある。
 行動のイメージとしては、住民や行政、関係者を巻き込んで試行的な実験を行いながら、政策の有効性、優先性の判断を決定するとともに、政策の立案・決定・実施に至るプロセスで行政との協働関係を構築、あるいは市民と企業、行政の協働関係をプロデュースする。また、政策評価だけではなく政策の提案後、あるいは事業実施後も可能な葉にでフォローアップを行なうというイメージである。
 行政からの独立性や対等性・対抗性としては、NPOとして活動実績、テーマの先駆・先見性、住民や専門家のバックアップ力、そして提案具現化力がその担保になろう。


2.コミュニティ・シンクタンクの役割・機能と形態(1.4.1)
2-1役割

 公共政策はすべてわれわれのくらしに関わることなのに、国民や市民には難しすぎて、縁遠い存在となっている。
 一般的には、政府の公共活動のための指針や活動方針という受け止め方である。政府が立案し、利害関係団体との要請をおこない、市民参加による形式的な意見聴取や、審議会や委員会での専門的意見を参考にして、最終的には議会とのやりとりで決定されるものというイメージである。
 ところで公共政策には、狭義の公共政策と広義の公共政策があると考えられる。狭義の公共政策とは、政府が政府活動領域のみで政策形成を完結させようとする閉じられた政策である。視点をかえてわかりやすくいえば、公共的問題や行政需要に対して、市民やNPO、企業の力を借りずに政府のみで対応しようとしてきた、大きな政府の時代の公共政策といいかえることができる。
 それに対して広義の公共政策とは、政府、市民・NPO、企業の各公共活動を公共政策の共通の担い手としてとらえ、それらの連携と役割分担による公共活動の総合化をめざす、政策評価も組み込まれた開かれた政策である。また、この広義の公共政策は、簡素で効率・効果的な小さな政府を実現するための、官民協働型の政策形成と位置づけることができよう。
 コミュニティ・シンクタンクの最大の役割は、公共政策を住民により身近なものにし、住民自らがその立案・実施・評価の担い手となる、広義の公共政策概念の確立と領域の創造である。
 一方、参加型社会が実体化してくる状況下で、今、新たに生活者の視点でその地域の独自の基礎情報をトータルに集大成し、それを基本にして、その地域の製作について、市民・議員・企業・自治体が議論しながら、「ともに学び」「ともに育ち」「ともに築く」ことが必要である。
 それは、「地域実践政策形成」とも言えるので、これを支えるのが、コミュニティ・シンクタンクではなかろうか。
 市民・議員・企業が自治体と対等に基礎データをもとに、地域コミュニティについて議論ができるように、足腰をきたえて、力をつける。また、市民の中からすばらしい人材を発掘し、育てながら主体的に関わっていけるようにするのが、コミュニティ・シンクタンクの役割といえる。
 コミュニティ・シンクタンクは、既存のシンクタンクとは少し異なり、その地域に根ざして、市民のその地域に対する熱き「おもい」を自分たちの政策としてまとめ、その具体化のために、その地域の多様な価値を活用して、いろんな組織や人とが協働し、実現するとともに、その結果についてもフォローでき、また、それをさらに次のまちづくりに活かすための機能を有すべきであろう。たとえば、市民とともにその地域の価値を発見し、実験し、立案し、実施し、その結果をもとにまちづくりにつなげていける、そういう役割が今、求められている。
 コミュニティ・シンクタンクは、まさしく「地域実践型政策形成」基本となる組織であり、これらの活動を通じて、市民・議員・企業・自治体が変わり、そして育ってゆくーこれこそ地域が求めていることではないだろうか。


2−2 機能

 コミュニティ・シンクタンクの役割と機能を整理すればおおよそ次のとおりである。
○住民、NPOの政策立案、形成力の支え(住民自治のサポーター)
・ 市民活動団体の課題解決のために行なう調査研究を、専門的な立場から支援する。
・ 住民・NPOに対する政策支援・政策形成力の強化機能
・ 地域活動、市民活動に関する情報センター、「まちづくり」センター
・ 地域の情報センター、地域学の研究所
・ さまざまな市民活動、活動人の力を総合するための舞台
○地域に根づいた政策研究機関として、公的課題(行政課題)についての調査研究を行なう。
・ 行政へのアドバイス、コンサルティング、市民的視点からの代替案の作成
・ 地方行政システム、地方行財政改革、地方分権の監査役
・ 政策に関わる情報デタベース機能
○新しい形のインターミディアリー組織(市民、企業、行政をつなぐ)
・ まちづくりをすすめる市民と企業・行政のパートナーシップのコーディネイト
・ 新しい「まちづくり」システムの開発、参加のデザイン開発
・ 議会、企業、大学、マスコミ、シンクタンクとのパートナーシップ


3.コミュニティ・シンクタンクに必要な基礎的環境
3−1 基礎的環境(2.2.1)

 コミュニティ・シンクタンクが内包すべき基礎的な環境要素を整理すると、次のとおりである。
●地域の暗黙智に根ざす
 地方において、その地域の独自性発揮の源泉である歴史的背景、価値観や評価尺度と思考パターンなどを含む文化、政治力学などで構成される「地域社会の暗黙智」に対する深く厚い理解が必要である。この「地域社会の暗黙智」に基づかない提案は、当該地域において実効性が低くなり、ひいては提案主体への社会的評価を低下させることとなる。
 暗黙智への理解は、立場を超えた地域人同士の相互理解の基盤としても重要であり、地域社会を向上させるための(表面的ではない)「和」を形成する根源となる。
●自発的参加意識とその持続性
 コミュニティ・シンクタンクには、ボランタリー(自発的)な参加意識が求められる。同時にその涵養とそれを持続させる能力も併せ持たなければならない。
 そのために根底となる文化土壌・思考基盤には、自利利他の精神の根付きを要すると考えられる。利己では完結しない、より大きな社会的「利」の目的・動機つけなしには、共感・共鳴の広がりは望むべくもなく、継続性への原動力も弱くなろう。
●活躍できる環境
 コミュニティ・シンクタンクが機動的に活動するためには、対外的には社会的な認知を得る必要がある。ただし、元来この種の事項には「にわとりと卵」問題が横たわっている。具体的な社会貢献を地道に積み重ねることで、社会的認知を得ることができる。社会的認知を得ることで一層社会的に有効な活動が可能となり、一種の収穫逓増状態を作り出すことが可能となる。どちらが先かではなく、地域社会の状況やコミュニティ・シンクタンクの置かれた諸環境を十分に研究し、両者のかみ合わせに心を配ることが重要である。
 一方、対内的には人間関係を基礎とした「発案しやすい企画・運営環境づくり」が、効果的な事業を生み出す母胎を作る。コミュニティ・シンクタンクの実際の運営現場で特に留意されるべき点である。
●良質な人間関係
 コミュニティ・シンクタンクに求められる政策提言と実行性は相反しないものの、両立には相当高いハードルが待ち受けている。それらを乗り越え歩むには、もっとも基盤的な要素としてのコミュニティ・シンクタbクおよびそれを取り巻く人間関係が重要である。相互尊重と信頼関係の不断の構築こそ、難度の高いコミュニティ・シンクタンク活動の源泉となろう。
 通常、専門分野の異なる専門家が複数で運営に参加した場合、心理的になじめない状態が発生しやすい。これを乗り越えるには、専門家の側にネットワーク志向の価値観の芽生えが求められる。自らが所有する(と思っている)ノウハウや専門知識を積極的に開示することは、自らの損失・安売りではなく、逆により大きな情報の流動・交流の中に身を投ずることであり、それによって一層自らの刺激や知恵の獲得機会になり得ることを理解すべきであろう。
 今後、さらに分権や住民参加を進めることは、異なる立場・意見・価値観の存在を認め、その認識の上で、改めて合意形成を図る必要性が増大することを意味している。コミュニティ・シンクタンクはまさにその渦中にある。「まず隗より始め」なければならない。
●正当な評価
 コミュニティ・シンクタンクの活動成果を広く地域社会に問いかけることは、社会的認知を得ることにもつながる重要な要素である。同時に多様化する価値観に、その評価を直接求めることでもある。高い評価を得るためには、常なる反省と改善を怠らない柔軟性と覚悟が求められる。
 高く透き通った志があるならば、これらに向かう態度が実直なものになる。
●志
 先進的な高い志やビジョンを持つことは、きわめて重要かつ必要なことである。しかし、同時にその志は地域社会にとって、妥当性も具備していなければ共感・共鳴が得られにくい。高すぎる理念・志は孤高に陥る。
 地域社会にあってのコミュニティ・シンクタンクである。遊離することは自己否定になる。コミュニティ・シンクタンクに携わる個人が極めて高い志を秘めることは歓迎されるべきであるが、他に語る場合は、妥当性のフィルタを通すことを肝も銘ずる必要がある。コミュニティ・シンクタンクは、孤高の思想家・哲学者のための場ではない。

3−2 活動要素(2.2.2)

 コミュニティ・シンクタンクに求められる活動要素を整理すると、次の通りである。
●合意形成力
 地域社会のさまざまな立場からの意見がある。ある地域問題の解決策を提言するにあたっては、柔軟にそれらを調整し、解決策自体も柔軟に、幾度となく検討を重ねて、最終的な合意形成を進めていく能力が求められる。
●人財発揚力
 地域住民とともにあって、相互に気づき・触発し合い、ともに高め合う場を設定・運営できる活動能力が求められている。
(一般的には人財発揚場ではなく人材育成とすべきであるが、人は材料ではないので人財と表記した。また、人財育成という語は育てる側と育てられる側という関係性を想起するので、共に育つという意味をこめて発揚とした。)
●告知力
 地域内の合意形成や社会的認知を得るためには、活動内容を始めとして適切かつ効果的な情報を地域社会に伝達する必要があり、情報告知力が求められている。
 地域内で孤軍奮闘する事例も多々見られるが、この克服策として、地域外からの高い評価を外部支援として利用することは、徐々に行なわれ始めている。地域外に共感・共鳴の輪を広げ、活動に対する応援や支持を取り付けられる情報発信力が求められている。
●企画構想力
 新規事業の立案や既存事業の見直しの場面では、新しい視点からの発想が求められる。このためには、先進情報や時代潮流に関する情報収集分析が基盤となるが、そこから何を取捨選択するかという着眼力こそ最も重要な能力である。
 同時に、その新しい発想を時代の要請に合う形に翻訳して、ストーリーを分かりやすく組み立てる構築力が求められる。
●実践力
 企画立案された計画に基づき、果敢に実行する行動力が伴わなければならない。同時に、実施中ならびに実施後の状況に根ざした冷静な藩政も求められる。
●しくみづくりの力
 地域社会の向上を図るために、イベントや諸活動の実践を通じて、さまざまな「しかけ」を仕掛ける能力と、それを持続させ定着させて仕組み化する能力が、戦略的実践能力として重要である。

3−2 コミュニティ・シンクタンク像(仮説)(2.2.3)

 コミュニティ・シンクタンクの活動がThink Only Tankでは成立しないことは明瞭である。それではコミュニティ・シンクタンクがDo Only Tankでよいかというと、これでも不十分である。実践の現場において困難な障壁に直面したとき、間髪おかず諸事情から新しい概念・理論構築を行なう能力が十分に備えていることも求められている。
 コミュニティ・シンクタンクに求められる姿とは、地域独特の暗黙智に対する厚く深い理解に根ざしたThink and Do Tankであって、Think系のThink-Integrate-Theorizeサイクルと、Do系のPlan-Do-Seeサイクルとを、同時に循環させながら、かつ相互に橋渡しできる活動体となる必要がある。

3−3 今後の課題(2.2.4)

 石川県地域づくり推進協議会では専門家・コーディネーターの派遣制度の活用により、彼らに対して規定の謝金が支給されている。しかし、生活が保証されるものではなく、逆に彼らも本職同様の時間を割いているわけではない。彼らは別途「本職」を有しており、その間隙を縫って関わっている状態である。
 コミュニティ・シンクタンクの将来像を模索する時、コミュニティ・シンクタンクの専属職員や専属コーディネーターが、専門職として地域社会からの認知を得、職業として成立できなければ、コミュニティ・シンクタンクに求められる上記の相当高い水準を達成し、本領を発揮することは困難であろう。また、仮に低報酬でもボランタリーな参画を実現するコーディネーターが現れたとしても、彼の後継者は現れにくいかもしれない。ボランタリーな個人の意識・価値観にのみ頼っていては、社会の仕組みとすることはできない。
 コミュニティ・シンクタンク自体の経営基盤の確立と同時に、その活動に携わる専門家・コーディネーターを職業として成立させる道程を明確にすることが、今後の重要な課題の一つとなろう。